「よく噛んで食べましょう」
「1口30回は噛みましょう」
よく聞く言葉ですが、なぜだか知っていますか?
よく噛んで食べるとダイエットに効果的だとも言われていますが、それだけではありません。
そこで、食事をよく噛むメリットとデメリット、よく噛むための工夫の仕方を、管理栄養士の小原水月がご紹介します。
私が考える「よく噛む」とは
私がよく噛むためにしているのは、口の中の食材や料理の味や形の変化に意識を向け、観察することです。
料理や一口の大きさ、食材の硬さや状態によっても噛む回数や一口の時間が変わるので一概に数字は決められません。
料理や食材を口の中に取り込み、歯で噛み砕く、一旦上あごにたまり、また噛み砕くという口の中の循環を観察します。
食材と調味料、食材同士が混ざり合い、食材とだ液と混ざり、味が変わっていく経過を楽しむ。
もう噛めないくらいドロドロになったら自然と飲みこんでいます。
人間の体の仕組みとして、水分が多く柔らかいもの、はっきりとした味つけのものはあまり噛まずに飲みこみやすくなるようです。
噛むことは運動だ!
食事を噛んでいるときに顔や頭、首をさわってみてください。
動いているのを感じますか?
噛むことは首上の筋肉を総動員しておこなわれているのです。
この筋肉が動くことで得られるメリットを5つ詳しく解説します。
メリット1|小顔に近づく
よく噛むためには顔中の筋肉を使うので、食事のたびに筋トレをしている状態になります。
ほほの位置が上がり、あご周りがすっきりして、ほうれい線が目立ちづらくなる。
まぶたがすっきりするので目がパッチリし、明るく若々しい印象になる人もいます。
メリット2|胃腸機能の活性化
胃や腸も筋肉でできているので動かすほどに鍛えられ、機能的に働くことができます。
しかし、胃や腸は自分の意志で動かすことはできません。
そこで重要になるのがよく噛むことなのです。
口・食道・胃・腸と消化器は1本の管でつながっていて、動きも連動します。
よく噛んで口を動かすと食道が動き、食道が動くと胃が動き、胃が動くと腸が動く。
胃や腸が元気な状態であれば垂れ下がることもなく、ぽっこりお腹の予防にも有効です。
メリット3|顔が明るい印象に
よく噛むと顔の血行がよくなります。
顔は血液が透けて見えるほど肌が薄いため、血液の状態が直接顔色に影響します。
血行がいい状態であれば、老廃物の回収がスムーズにおこなわれ、肌が明るく透明感も出やすくなります。
また、肌に充分な栄養がいきわたることで肌の機能が効率的になります。
乾燥から身体を守り、潤いを生み出し、保つ力が強くなるのでツヤのある肌が手に入ります。
メリット4|頭の回転が速くなる
よく噛むと首上の血行がよくなり、脳の血流量も増えます。
集中力や理解力、判断力が上がり、心が安定するのを感じるはずです。
血液が十分にあると栄養素と老廃物の交換がスムーズにおこなわれ、脳が機能的に働くようになります。
同じ時間でも行える作業量が増えるので、余暇を楽しむことができますよ。
メリット5|心身のバランスが整う
噛むことは一定のリズムで繰り返すリズム運動でもあり、セロトニンの分泌を促します。
セロトニンとは幸福ホルモンと呼ばれる精神の安定や幸福感、リラックスに関わるホルモンの一種です。
さらに、自律神経の交感神経と副交感神経のスイッチの役割もにない、不足すると脳を含め全身の機能低下につながります。
また、セロトニンを材料にメラトニンというホルモンが合成され、睡眠の質と量に影響します。
十分な睡眠は朝の目覚めや、日中のパフォーマンスに直結するため大切にしたいですね。
噛めば噛むほどだ液が出る
唾液にはさまざまな働きがあることを知っていますか?
口に食べ物を取り入れ噛むことで唾液は分泌が促され、その量は平常時の10倍ともいわれているのです。
よく噛むことで得られる唾液のすごい働きを3つご紹介します。
唾液のここがすごい!①栄養素の吸収率アップ
だ液には消化酵素が含まれています。
よく噛んで食べ物を細かく砕き、唾液と混ぜることで口の中でも消化がおこなわれるのです。
口で消化が進められると胃での消化がスムーズに進み、腸でより多くの栄養素を吸収できます。
もし、だ液の分泌が不十分で消化が進まないまま胃に食べ物が送られると、胃の負担が大きくなり、胃もたれや消化不良の原因になることも。
また、腸では十分に消化されていない食べ物は腐敗しやすく、腸内環境の悪化を引き起こす可能性もあるのです。
食べ物の栄養素を余さず吸収し、体の機能を維持するためにも唾液は重要な働きをします。
唾液のここがすごい!②体防衛隊
唾液には細菌を溶かしたり、繁殖を抑制したり、感染を抑制したりする成分が含まれていて、体内に細菌が入るのを防ぐバリアのような働きをします。
また、食品添加物や 焦げなどの発がん性が心配される物質のほとんどに対して、働きを抑えることが確認されています。
そして食べ物のカスを洗い流したり、歯の修復を促したりすることで虫歯や歯周病予防にも大きくかかわっています。
唾液のここがすごい!③細胞を守り若返る
唾液には若返りホルモンとも呼ばれるパロチンが含まれています。
パロチン皮膚の新陳代謝を活発化、目や髪などの成長促進に関わる成長ホルモンの一種です。
また、唾液には老化の原因といわれる活性酸素を抑える作用があることも分かっています。
食事の時に分泌された唾液を飲み込み、腸で吸収されることで全身の細胞の若返りを後押しができるのです。
よく噛んで食べるとおいしくなる
早食いとよく噛んで食べるのでは、食材や料理の味わいが変わるのを知っていますか?
数値で表したり、データで確認したりはできませんので体験するしかありません。
なぜ、同じものを食べても感じ方が変わるのかを解説します。
よく噛むとおいしくなる秘密 ①時間
よく噛む食事は口の中に食材や料理がとどまる時間が長くなります。
そうすると、今まで見落としていた味や香りに気づくことができるのです。
それまでは、表面的な味つけだけを感じて飲みこんでいたのが、食材の味わいや、食材と調味料が混ざったときの味、ゆっくりと鼻から息を抜くことで香も感じることができます。
例えば、お米はよく噛むと甘くなるというのは多くの方が知るところですが、ほかの食材や料理でも同様の変化が起こるのです。
一回の食事で一口ごとにおいしさを感じられたら幸せじゃありませんか?
1日3回の幸せが、暮らしの満足度も高めてくれます。
よく噛むとおいしくなる秘密 ②意識
ゆっくりよく噛むと目の前の食事に集中することになります。
心配や不安はまだ来ぬ未来に対して、後悔や怒りは過ぎた過去に対して起こる感情です。
「今」に集中することでネガティブな感情を手放せ、リラックスできます。
リラックス状態は副交感神経が優位になり、心の安寧だけでなく、消化吸収活動も活発になり食事時間にふさわしい状態といえます。
よく噛む食事のデメリット
よく噛むことのデメリットをしいてあげると「疲れる」です。
口、食道、胃、腸、顔、とすべて筋肉が関わっている部位です。
今まであまり使わなかった筋肉をいきなりたくさん使うと、筋疲労や筋肉痛が起こることがあります。
あごやこめかみが痛くなる
食べ物を飲み込むとのどが痛い
胃もたれして食欲がわかない
急にお通じが出なくなった
思いがけない不調を感じるかもしれません。
しかし、筋肉は使えば使うほど鍛えられますし、続けていくと慣れてきて疲れることも、痛みを感じることもなくなります。
食事をよく噛むための工夫9選
早食いの人がよく噛む食事に移行するのは簡単ではありません。
けれど、続けていれば必ず身に付きます。
環境や食事を整えてより噛みやすい状況を作ると続けやすくなります。
簡単にできる噛むための工夫をご紹介しますね。
その1「噛めるものを用意する」
やわらかいものや、液体ばかりの献立ではそもそも噛むことができません。
パンよりごはん、ポタージュより豚汁、ハンバーグより生姜焼き、というように素材の形が残るような料理はよく噛むのにぴったりです。
その2「食材の大きさを変える」
食材を食べやすく細かく切るのではなく、食感をいかすようにごろごろと大きめに切ると噛みやすくなります。
また、食感が均一なものはよく噛む前に飲みこみやすくなるので気を付けましょう。
ごはんに雑穀を混ぜる、炒めものにきのこを入れる、など食感に変化をつけてみてください。
その3「食事の前に深呼吸」
お仕事モードやせわしない気持ちのまま食事を始めてもゆっくり噛むのは難しくなります。
そこで、手軽にリラックスモードのスイッチを入れられる深呼吸をおすすめします。
気持ちがザワついているときは、手振りも付けて3回深呼吸をしてから食事をしてみましょう。
その4「テレビ・スマホ・ラジオをオフ」
意識が外に向くと噛むことがおろそかになりがちです。
目の前の食事に興味を持って集中し、観察しながら食べてみてください。
食レポするつもりで食べるとよく噛めますよ。
その5「初めの一口は100回または1分数える」
初めの一口を集中して食べるとよく噛んで食べるモードがオンになり、その後の食事もゆっくりと食べやすくなります。
食事を楽しむために数えるのは初めの一口だけです。
その6「味つけに濃淡をつける」
人の体は味を感じると飲みこむ仕組みになっています。
口に入れただけではっきりと味がする料理ばかりの献立ではよく噛むのが難しくなります。
淡泊な味わいのごはんとしっかり味のおかずというように、一度の食事の中で味つけに濃淡をつけると噛みやすくなります。
その7「手がかかる料理」
骨付きの肉や魚、皮つきの野菜など食卓で食べるのに手間がかかる料理があるとよく噛むようになります。
面倒だからと敬遠しがちですが、ぜひレパートリーに取り入れてもらいたいですね。
その8「皿数を増やす」
皿を持ち替える手間があると噛む回数が増えます。
洗い物など片付けの手間を考えてワンプレートを使うこともあると思いますが、噛むことを優先する日は茶碗、汁椀、皿とそれぞれによそってみてください。
箸置きを用意して、一口ごとに箸をおくのもいいですよ。
その9「おいしく食べられるものを用意する」
おいしいもの、大好きなものは自然と大切に食べることができます。
ゆっくり味わいながら食べようと意識することで噛む回数も増えるのです。
目の前の食べ物に感謝し、ありがたい、という気持ちで食事ができると満足感も高まります。
噛むだけで幸せ倍増
良いとわかっていても状況や環境によってはゆっくりよく噛んで食事をするのが難しい場合もあります。
早食いの習慣をいきなり変えるのが難しいこともよくわかります。
しかし、だからといってよく噛む食事をあきらめてしまうのはもったいない。
できるときだけ、思い出したときだけでもいいのでやってみてください。
続けてさえいれば必ず身に付きますし、元氣な体と幸せな心もついてきますよ。
また、あなただけにピッタリな食事方法のご提案もしています。こちらよりお声かけください。